ものづくり補助金は、製造業に限らず、小売業やサービス業にも幅広く対応した支援制度です。パン屋をはじめとした食品販売業の皆さんにとっても、製造プロセスの改善や新商品の開発、設備投資に活用できるチャンスが広がっています。
本記事では、食品販売業のなかでもパン屋を具体例にものづくり補助金を上手に申請するためのポイントを解説するとともに、実際の採択事例を交えて、その成功の秘訣をわかりやすく紹介します。洋菓子、和菓子販売店、肉や魚、お茶、米屋など食品販売に携わる皆様、ぜひともご一読ください。
今回の記事の流れ
1.ものづくり補助金とは?
中小企業や小規模事業者が、新製品・サービスの開発や生産プロセスの改善を行う際に必要な設備投資を支援する補助金です。生産性向上や競争力強化を目的とし、革新的な取り組みを後押しします。※正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」
※12/17の補正予算案成立により、2025年の実施も正式に決定しました。
基本要件 | ||
以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画書の策定及び実行 ①付加価値額の年平均成長率が+3.0%以上増加 ② 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上 又は給与支給総額の年平均成長率が+2.0%以上増加 ③事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+30円以上の水準 ④次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表等(従業員21名以上の場合のみ) ※最低賃金引上げ特例適用事業者の場合、基本要件は①、②、④のみとする。※3~5年の事業計画に基づき事業を実施し、毎年、事業化状況報告を事務局へ提出する必要があります(事業成果確認のため)。 ※基本要件等が未達の場合、補助金返還義務があります。 |
メインとなる製品・サービス高付加価値化枠の補助上限は下記の通りです。
<製品・サービス交付価値化枠>
補助額 | ||
---|---|---|
従業員数 | 補助金額 | 大幅賃上げ特例(※1)適応時 |
5人以下 | 750万円 | 850万円 |
6~20人 | 1,000万円 | 1,250万円 |
21~50人 | 1,500万円 | 2,500万円 |
51人以上 | 2,500万円 | 3,500万円 |
補助率 | ||
中小企業1/2、小規模・再生2/3 ※最低賃金引上げ特例適用(※2)の場合は、中小企業も2/3 |
※1【大幅賃上げ特例】①給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上増加、②事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+50円以上の水準を満たしている場合、補助上限額が100~1,000万円上乗せされます。ただし、最低賃金引上げ特例事業者、各申請枠の上限額に達していない場合は除外です。また①、②のいずれか一方でも未達の場合、補助金返還義務があります。
※2【最低賃金引上げ特例】中小企業向けの補助率は基本的に1/2ですが、指定された期間内に、3ヵ月以上地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員数の30%以上の場合、最低賃金引き上げ特例により補助率が2/3に引き上げられます。しかし、基本要件のうちいずれかの要件を達成できない場合、補助金の返還義務があります。また、小規模事業者や再生事業者の補助率は2/3です。
2025年に実施される第19公募について詳しくは、こちらの記事でご紹介しています。
2.「ものづくり補助金」は食品販売業も活用できます
パン屋、洋菓子・和菓子屋でも「もものづくり補助金」を活用できる!
ものづくり補助金は、食品販売業も補助対象となる支援制度です。パン屋や和菓子・洋菓子などの製菓店、必需品の肉や魚などの生鮮品からお茶、お米屋まで多岐にわたって対象となります。過去の採択事例でも、パン屋に関連する事業や鮮魚、製茶、コーヒー、醸造業などが多数採択されています。
弊社がご協力した事例でも、米を製造されていた農家の方が製粉機を導入し、米粉パンを製造販売する事業が採択され成果をあげられています。
ただし、補助金の審査では、事業内容が補助金の趣旨に合致しているかが重要なポイントとなります。食品販売店の場合、以下の要素に注意を払いながら申請を検討することが必要となります。
審査で確認されるポイント
対象外となる事業 | 申請可能な事業 |
---|---|
製品の販売のみを目的とする事業 | 製品の開発や改良を伴う事業 |
サービスの提供のみを目的とする事業 | サービスの質向上を目的とした技術や設備導入 |
食品販売店が活用できる事業内容
ものづくり補助金を申請するためには、以下のような革新的な取り組みが求められます
- 製造工程の改善: 商品の製造プロセスを効率化し、品質向上を図る設備投資や技術革新。
- 新商品の開発: 既存の製品に加え、新たな商品やメニューの開発を通じて市場に新しい価値を提供。
- 効率化された製造ラインの導入: 生産性を向上させるための新しい製造設備やシステムの導入。
このように、単なる食品の販売ではなく、製造過程に革新を加える取り組みが求められます。
3.パン屋での「ものづくり補助金」採択事例
それでは具体的に、パン屋でのものづくり補助金採択事例をご紹介していきましょう。
パンの品質安定と生産性の向上へ向けた製造ラインの整備
ものづくり補助金のホームページで紹介されている福島県のパン店での成果事例(平成27年度)を詳しくみていきます。「パンの品質安定と生産性の向上へ向けた製造ラインの整備」(ものづくり補助事業公式ホームページより)
1. 設備導入の背景
従来、パンの発酵工程は手作業とアナログな設備に依存しており、非常に時間と労力がかかっていました。
従来の発酵工程 | 内容 |
---|---|
パン生地を並べる | 手作業で生地を並べる |
ストーブの準備 | ストーブを点火し準備 |
鍋に水を入れ沸騰 | 鍋に水を入れ蒸気を発生 |
灯油の残量確認 | 灯油がなくならないように確認 |
鍋の水補充 | 水が減ったら補充 |
※この複雑な作業により、発酵完了まで約80分を要していました。
2. 新設備の導入とその効果
新たに導入した設備によって、発酵から焼成までを一貫して効率化を実現、以下のような成果がもたらされました。
発酵時間の短縮
従来 | 新設備導入後 |
---|---|
約80分 | 約35分 |
湿度・温度の自動管理
- 温度設定: 0~45℃
- 湿度設定: 0~95%
- スプレー式水蒸気供給: 均一な湿度管理を実現
焼成の品質向上
- オーブン内の温度が均一に保たれるため、焼きムラが解消。
- 風味・香りの最大化: 高濃度の蒸気を均一に供給し、パンの風味や香りが引き立つ。
製造量の増加
従来の製造量 ※1回あたり | 新設備導入後 |
---|---|
40本 | 64本 |
3. 操作マニュアル化による効率性
新設備の導入に伴い、操作工程がマニュアル化されたことで
- 製造ロスの大幅削減
- 安定した品質の確保
- 作業負担の軽減
が実現。全従業員が設備を最大限に活用できるようになり、業務が効率化されることとなったのです。
4. 今後の展望
設備導入を基盤に、さらなる事業展開が期待されています。
- 給食事業の拡大:町内施設との協議が進み、新規給食事業への対応が可能に。
- 新規雇用の創出:給食専任担当者の採用を視野に入れ、人員体制を強化。
- 製品開発:特産品を活かしたパンや高齢者向け給食パンの開発に着手。
- 地域PR活動:イベントでの試作品販売や新商品の発表により、地域への貢献と認知度向上を図る。
5. 設備投資の意義
今回の設備導入により、このパン屋では次のような成長を遂げることができました。
- 作業時間の大幅短縮
- 生産性の向上
- 品質の均一化
- 事業拡大への基盤形成
今後の事業展開にも大きな影響を与え、さらなる発展の可能性につながるといえるでしょう。
その他の採択事例
その他にも、複数の採択事例があります。
- ベーカリーのパンOEM化と厨房機器新設による生産性向上
- パン生産工程のコンタミネーション防止と効率化による販路の拡大
- 熊本県シェア№1企業として独自製法による高付加価値パンの生産体制確立に挑戦
- 給食パンの安全安心・安定供給に必須の新型ミキサ導入で生産性向上
- パン作りの生産性と品質を高める新設備導入計画
- 新たなパン製造体制の構築による生産効率向上と顧客満足度の向上
- 捏ね工程時間短縮により実現する給食パン・一般向けパン収益拡大
- 高性能包成機導入による薄皮パン生産プロセス改善・利益拡大事業
- 酒蔵に隣接した築93年の古民家でのスイーツ等の製造、販売、飲食提供
- 地元産米粉を使用したアレルギー対策食品の試作開発
- 茶葉の品質を左右する蒸し機への投入精度とライン全体のシンクロ率向上の投資計画
- 魚屋がIoT技術を活用し鮮魚の受発注管理等、革新的な流通システムを構築する計画
- オンライン和菓子創作セットの生産性向上と長期品質保証による販路拡大と和菓子の魅力発信
- 抹茶チョコレートの自社製造化とお茶及びお茶を使ったお菓子のネット販売強化のための冷蔵冷凍庫整備
- 食物アレルギーの人でも美味しく食べれるヘルシースイーツの試作開発
※各事業の詳細については、こちらをご参照ください。
ものづくり補助金公式ホームページ 成果事例のご紹介
4.食品販売業で「ものづくり補助金」に採択されるためのポイント
食品販売事業において、ものづくり補助金の申請を採択されその効果を最大限に活用するためのポイントをご説明します。
1. 明確な事業計画書の作成
ものづくり補助金の審査では、事業計画書の質が大きな評価ポイントとなります。特に、以下の要素を明確に記載することが求められます。
具体的な数値目標(生産性向上率、コスト削減率、売上増加見込みなど)も示すことで説得力が増します。
2. 革新的な取り組みを盛り込む
ものづくり補助金では、単なる設備更新ではなく、その設備を導入を伴う革新的な取り組みが求められます。
前章であげたその他の採択事例もご参考ください。
3. 賃上げ要件への対応
ものづくり補助金に採択されるために、給与に関する基本要件を満たす必要があります。
② 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上。又は給与支給総額の年平均成長率が+2.0%以上増加 ③事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+30円以上の水準※ 2025年は最低賃金引上げ特例と大幅賃上げ特例の2つの特例が新設されています |
※「1.ものづくり補助金とは」で詳しくご説明しています。
4. 補助対象経費を正確に理解する
補助対象経費には以下のものが含まれます
- 機械装置・システム構築費
- 技術導入費
- 運搬費
- 外注費
- クラウドサービス利用費
ただし、人件費や消耗品費は補助対象外となることが多いため、注意が必要です。
補助対象経費については、以下の記事で詳しくご説明していますので、ご一読ください。
まとめ
パン屋を具体例に食品販売業でものづくり補助金を活用する際のポイントや、実際の採択事例を紹介してきました。
- 明確な事業計画書の作成:目標や数値指標を明確にし、生産性向上やコスト削減の達成方法を示す。
- 革新的な取り組み:最新設備や技術(IoT・AI)を導入し、工程や品質を改善する。
- 賃上げ要件の遵守:最低賃金引き上げや労働環境改善に取り組み、補助率の引き上げを目指す。
- 補助対象経費の把握:対象経費(機械装置、技術導入費など)を正確に理解し、無駄を省く。
- 長期的なビジョン:設備投資後の事業拡大や新市場参入、地域貢献を見据えた計画を立てる。
食品販売業がものづくり補助金を活用することで、生産性の向上や品質の安定だけでなく、新しい市場の開拓も実現可能です。これにより、地域経済の活性化に貢献するとともに、持続可能な成長モデルを構築するための重要な一歩となります。補助金を効果的に活用し、ぜひ今後のビジネス拡大と地域社会への貢献を目指しましょう。
※ものづくり補助金 19次公募の実施が決まりました。公募日などの詳細は、決まり次第当ブログにてご紹介します。
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